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特許業務法人を抜けたい、解散したい—そんなあなたの悩みを一挙に解決

事例1

 P特許業務法人は、A,B,C三名の弁理士を社員として2004年に設立された。
A弁理士、B弁理士、C弁理士ともに、それまでは独立した個人特許事務所を経営しており、当時からのメインクライアントとして、X社、Y社、Z社を有している。

 このたび、C弁理士がP特許業務法人の社員から抜けたいという意向を示した。この場合、C弁理士が留意すべき事項は何か。

[1]特許業務法人とは何か

 特許業務法人は、無限責任を有する社員から構成される法人です。会社法上の合名会社に相当します。
 社員は、特段の定めのない限り、業務執行を行う権利及び義務を有し(弁理士法(以下、「法」という)46条)、特許業務法人が弁済できない範囲の債務について、連帯して責任を負うことをもって、無限責任を負っています(法47条の4第1項)。

[2]どういう要件・手続きで脱退できるのか

 C弁理士がP特許業務法人を脱退することに対して、総社員の同意があれば可能です(法51条3号)。この場合、総社員の同意とは、脱退申出者であるC弁理士を除く他のすべての社員(A,B)の同意です。
 ところが、B弁理士がC弁理士の脱退を認めない、といったらどうなるでしょうか。この場合でも、6ヶ月前までの脱退の予告を特許業務法人にすることにより、事業年度の終了の時において脱退することができます(法55条1項、会社法(以下、「会」という)606条1項)。そうしておかないと、P特許業務法人の社員として継続する気もないのにいつまでも無限責任を追い続けることになり妥当ではないからです。(言い換えれば、少なくとも6ヶ月は我慢しなければならない、ということになります。)
 また、やむを得ない事由があるときは、いつでも脱退することができます(法55条1項、会606条2項)。「やむを得ない事由」とは、病気で弁理士業務ができない場合などをいうものと思われます。
 ところで、C弁理士が脱退を表明したら、B弁理士も脱退を表明してしまった場合はどうなるでしょうか。特許業務法人の社員は、弁理士に限られ、数は2人以上でなければなりません。(法43条1項、法52条2項)。したがって、A弁理士は、6ヶ月以内に社員を2人以上にしなければ、P特許業務法人は解散となってしまいます(法52条2項)。これは、一人法人は従来の個人事業と区別できなくなってしまうからこれを認めない、という法の配慮によるものです。

 さて、C弁理士が所定の手続にてP特許業務法人を脱退した場合、C弁理士の責任はなくなるのでしょうか。実は、脱退をしただけでは社員としての無限責任を免れることはできません。法は、脱退しても、脱退の登記をする前に生じた債務について責任を負う旨を定めており(法47条の4第7項、会612条1項)、無限責任を免れるためには、脱退したことの登記が必要です。これは、登記の公示力に基づいて顧客その他の債権者を保護するという趣旨のようです。

[3]特許業務法人の社員を抜ける際にクライアントは持って行けるのか

 本件においては、特許業務法人を設立する際には、A弁理士はX社、B弁理士はY社、C弁理士はZ社というようにそれぞれのクライアントを持ち寄ったので、C弁理士は当然にZ社の業務を引き継げるように思います。しかし、特許業務法人を設立して業務を行うということは、Z社はC弁理士個人と業務委任契約を締結するのではなくて、P特許業務法人と契約を締結するのですから、当然にはそうならないことに留意する必要があります。
 この点は、弁理士法に特段の規定はありませんので、C弁理士は新たにZ社と契約を締結して業務を行うことになるでしょう。C弁理士がZ社と契約することをA弁理士、B弁理士が承認しない場合はどうなるでしょうか。この場合でも、誰を代理人として選任するかは、Z社の自由ですのでC弁理士は新たにZ社と契約を締結して業務を行うことができます。しかし、P特許業務法人から勝手に書類等を持ち出すと、窃盗罪や横領罪に該当する可能性があることに留意する必要があります。
 
 これとパラレルに考えられる問題は従業員です。例えば、C弁理士が設立の際に連れてきたD氏を引き抜くことはできるのでしょうか。この場合、D氏には契約の自由があるので、P特許業務法人はその退職、C弁理士への就職を阻止することはできません。

 D氏が退職したら、D氏の人望によりEさん、Fさん、Gさんの三人もC事務所に転職してしまい、P特許業務法人に混乱を生じた場合はどうなるでしょうか。このようなケースについて、在任中の引抜きの態様が、社員と従業員との関係等の事情を考慮しても不当なものと評価される場合には(例えば、C弁理士がD氏を引き抜けばE、F、Gともに転職するだろうとの期待のもと、P特許業務法人に危害を加える目的でこれを行ったような場合)忠実義務違反となり(法55条1 項、会593条2項)、P特許業務法人から、損害賠償を請求されるおそれがあります。

[4]責任関係

 C弁理士が脱退した後、顧客から「当時C弁理士が行ったクレーム補正は我々の指示に反しており、そのために、ライセンスができなかった。損害の賠償を請求したい」とのクレームがあった場合、P特許業務法人は顧客に対して「それはCがやった仕事なので、Cに対して言ってほしい」と言えるのでしょうか。
 P特許業務法人は、社員Cが職務上、クライアントXに加えた損害を賠償する責任を負うので(法55条1項、会600条)、第一次的にはP特許業務法人が損害賠償責任を負います。従い、そのようなことを顧客に言うことは原則としてできないことになります。ただし、P特許業務法人にその損害を弁済するに十分な資力がない場合は、C弁理士は無限責任を負いますので、顧客はC弁理士に直接損害の賠償を請求することができます。ただし、顧客のC弁理士に対する請求が、その脱退登記から2年以上経過している場合は、社員Cの責任は消滅します(法47条の4第7項、会612条2項)。

 それでは、その損害をP特許業務法人が弁済したときに、P特許業務法人はC弁理士に追及できるのでしょうか。C弁理士には、P特許業務法人の社員としてその職務の執行について善管注意義務が認められますので、C弁理士の職務内容がこの義務に反するような場合は、損害の賠償を請求することができると考えます。これは、C弁理士がすでに脱退していても同じです。C弁理士としては、「当職に善管注意義務違反はなく、P特許業務法人が勝手に損害を払っただけなので知らない」との主張をすることになるでしょう。

[5]設立時の金銭債務

 C弁理士がP特許業務法人の設立の際に、事務所の保証金を立て替えている場合、C弁理士はこの返還を求めることができるのでしょうか。この場合、C弁理士は、P特許業務法人に対して立替金の返還債権を有しているということになるので、その返還期限が特に定められていない場合は、直ちに返還請求をすることができます。
 それでは、 C弁理士がP特許業務法人設立の際に、1000万円を投じて、事務所の内装等を整えた場合はどうなるでしょうか。この1000万円が、P特許業務法人の会計帳簿等からC弁理士による出資と考えることができる場合は、C弁理士は、持分の払戻しとして支払いを受けることができます(法55条1項、会611 条)。持分の払戻しによって払い戻されるものは、持分に相当する財産、すなわち、過去に履行した出資と、自己に帰属している損益に相当するものです。
 したがって、C脱退時のP特許業務法人の損益がプラスであれば、出資額1000万円+αの払戻しを受けることができます。しかし、損益がマイナスであれば、出資額1000万円全額の払戻しを受けることはできません。

つづく

鮫島正洋

鮫島正洋
・1963年1月8日生 東京工業大学・金属工学科卒業
・(株)フジクラ・金属材料開発部(1985年)
・弁理士登録(1992年)後、日本IBM(株)・知的財産部。
・弁護士登録(1999年)
・大場・尾崎法律事務所、松尾綜合法律事務所を経て2004年7月 内田公志弁護士と共に当事務所設立

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