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特許業務法人を抜けたい、解散したい—そんなあなたの悩みを一挙に解決

事例2

 P特許業務法人は、A,B,C三名の弁理士を社員として2004年に設立された。ところが、今年に入って、C弁理士がクライアントとのミーティングを数回にわたりすっぽかすなど、職務に対するモラルが低下しており、クライアントからの評判が著しく落ちている。そこで、A,B弁理士はC弁理士に脱退してもらおうと考えている。この場合、A,B弁理士が留意すべき事項は何か。

[1]C弁理士を脱退させるための手続

 クライアントや従業員との関係を悪化させないようにするため、C弁理士が自らの意思で脱退するよう話し合いをする必要があります。C弁理士に任意の脱退届を出させることが後のトラブルを防止する最良の方法です。従って、これに向けて、粘り強く説得することが第一です。

 交渉しても、C弁理士に脱退の意思がない場合には、強制的な手段を執るしかありません。この場合の手続が除名です(弁理士法(以下、「法」という)第55条第1項、会社法(以下、「会」という)第859条)。この手続きをとることにより、C弁理士の意思に反して脱退させることができます(法第51条第4号)。しかし、意思に反する社員資格の剥奪は最小限にとどめるべきであるという趣旨から、その要件は厳格なものになっています。すなわち、除名を行うには、以下に掲げる法定の除名事由があり、かつ、除名されようとする社員を除く他の社員の過半数の決議と、裁判所の除名判決が必要となります。

法定の除名事由(会第859条)
[1] 出資の義務を履行しないこと。(第1号)
[2] 競業の禁止に違反したこと。(第2号、会第594条第1項)
[3] 業務を執行するに当たって不正の行為をしたこと等。(第3号)
[4] 特許業務法人を代表するに当たって不正の行為をしたこと等。(第4号)
[5] 前各号に掲げるもののほか、重要な義務を尽くさないこと。(第5号)

 本件に即して考えると、C弁理士の社会通念上許容される範囲を超えた任務懈怠(クライアントとのミーティングをすっぽかす、意見書提出期限を徒過するなど)が頻繁に生じるときは、第5号に該当する可能性があります。
 しかし、裁判所に除名事由があることを認めてもらい、除名判決を得ることは時間と労力を要しますし、C弁理士からは逆に業務妨害や名誉毀損による損害賠償請求が提起されるリスクもあります。また、除名を巡って裁判沙汰になっていること自体が事務所の社会的評価を落とすことになりますし、その間の従業員のモラルダウンの問題など、負の影響ははかりしれません。
 そこで、冒頭に述べたように、C弁理士を粘り強く説得し、脱退してもらうことが大事なのです。

[2]A,B弁理士がP特許業務法人を脱退することのリスク

 C弁理士の脱退を説得できなかった場合、C弁理士と縁を切るもう一つの方法として、A,B弁理士がそろってP特許業務法人を脱退することが考えられます。この場合は、事例1で述べたように、少なくとも、6ヶ月前までの脱退の予告をもって、事業年度の終了の時において脱退することができます(法第55条第1項、会第606条第1項)。そして、新しく設立する特許業務法人等へのクライアントや従業員の移行を法律に違反しないよう行えば、C弁理士と縁を切ることが可能であると思われます。
 しかし、この場合、A,B弁理士は新たに事務所を構える必要があることから、余計な経費がかかります。また、A,B弁理士は、P特許業務法人からの脱退の登記がされるまでP特許業務法人の業務に対して責任を負うことになるので(法第47条の4第7項、会第612条第1項)、脱退したからといって、直ちに免責されるわけではないことに留意しなければなりません。C弁理士がP特許業務法人をしてA,B弁理士の脱退の登記義務を果たさない場合、最終的には脱退の登記を目的とした法的手段に訴える必要があり、A,B弁理士は脱退後も相当期間、責任を負うという大きなリスクが考えられます。
 このようなリスクを減らすために、以下のような手続をとることも考えられます。
 A,B,C弁理士の分担が顧客によって決まっている等、P特許業務法人におけるC弁理士の業務分担範囲を確定できる場合、当該範囲について、C弁理士を指定社員として指定することが可能です(法第47条の3)※1 。これを行うことにより、当該顧客の案件に関しては、C弁理士がP特許業務法人とともに責任を負い、A,B弁理士は免責されます(法第47条の4第4項)。(なお、この方法は、C弁理士に脱退を説得する際に、その説得が成功するまでの期間にかかるA,B弁理士のリスクヘッジにもなり得ます。)

※1指定社員制度とは、特定の事件について、特許業務法人がその業務を担当する社員(指定社員)を指定することができる制度のことをいいます(法第47条の3)。この場合、指定社員のみが業務を執行する権利を有し、義務を負い、指定事件については、指定社員のみが特許業務法人を代表することになるので、これによる責任は特許業務法人及び指定社員のみが負うことになります(他の社員は免責されます)。ただし、指定の事実については、その依頼者に対し、書面により通知しなければなりません。

[3]C弁理士への責任追及

 C弁理士が任意もしくは除名により脱退した後に、クライアントからC弁理士の任務懈怠により損害賠償請求がされることが考えられます。この場合、クライアントに対してはP特許業務法人が責任を負うべきとされています(法第55条第1項、会第600条)。P特許業務法人は、C弁理士に対して、社員としての善管注意義務違反を理由に(法第55条1項、会第593条1項)、この損失を求償することが可能です(法第55条第1項、会第596条)。

[4]不良社員の脱退に関するリスクヘッジ

 上述したように、不良社員の脱退問題は特許業務法人の営業の根幹を揺るがしかねないものです。その解決が長引けば長引くほど、当事者には大きな苦痛になることでしょう。このリスクを少しでもヘッジするため、脱退理由を定款によって任意に定めることが考えられます (法第51条第2号)。例えば、「一の社員がその社員として果たすべく業務を行わず、または、当該業務の執行が違法もしくは極めて不適切である場合であって、他の社員の総意をもって、当該社員の脱退を認めるべきと決議したとき」というような脱退理由を定款に定めておけば、C弁理士のように明白な任務懈怠がある場合の他、案件処理が極めて不適当なためにクライアントからクレームを受けたような場合も脱退理由にすることができるものと考えられます。これによってすべての場合に紛争とならず、解決が可能になるわけではありませんが、少なくとも相当のリスクヘッジになるものと思われます。

つづく

鮫島正洋

鮫島正洋
・1963年1月8日生 東京工業大学・金属工学科卒業
・(株)フジクラ・金属材料開発部(1985年)
・弁理士登録(1992年)後、日本IBM(株)・知的財産部。
・弁護士登録(1999年)
・大場・尾崎法律事務所、松尾綜合法律事務所を経て2004年7月 内田公志弁護士と共に当事務所設立

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